@にのみ用いた語を、一般の法律に通用するようになるのは、法律沿革史上に往々その例を見るところであって、諸国の法律は、最初に刑法、訴訟法などのようなものがその体裁を整備するものであるから、これらの法律の用語を他の法律に転用するようになることは、決して稀なことではない。
 支那においても、古代に法と称し律と称《とな》えたものは、殆んど刑法ばかりであるし、成典の存するものも、また刑法の範囲内で最も発達したのである。それ故、支那法系の法律では、刑法の術語を、後になって他の種類の法令に転用した例が甚だ多く、法例という語の如きもまたその一つである。そして前に掲げた法例という語の字義語意を稽《かんが》えて見ても、我邦においてこの法例なる語を広く用いるのは、決して不当でないと思う。
 このように、法例という語は、法律の適用に関する通則の題号としては、頗る穏当であるから、我輩は命を蒙って法例改正案を起草した時にも、これを襲用したのである。
 その後ち、商法改正案においても、総則なる語を改め、法例としてこれを題号に採用したのである。ここにおいて、我邦の法典においては、法例という語に二様の用例を生ずることと
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