いたところであって、彼はその守成策として、主として宗教的典礼を制定して、民をしてこれに依らしめることに努めたものと思われる。一体、神威を仮りて法の力を強くし、これに依って粗野不逞の人民を規則の下に統率制馭しようとすることは、古代の英雄の慣用手段であって、彼のハムムラビやモーゼやミノスやリクルグスなどの如き大立法者もまたこの手段を執っているのである。
伝うるところに拠れば、ヌーマ王はピタゴルスの哲学を修めたともいうが、またピタゴルスという人の教えを受けて宗教的礼法を定めたものだともいう。とにかく、表向きにはヌーマはローマの郊外なる「水神の森」において女神エジェリヤに会い、その垂教に依って礼法を定めたのであると、自ら称していたということである。
かかる託言から生れ出たのは、実に次の如きヌーマ、エジェリヤの恋物語である。ヌーマ王は女神エジェリヤの切なる寵愛を受けて、しばしばかのカメーネの林中にて人目を忍ぶ会合を行い、ここにて礼法の制定について種々女神の教えを受けておったのであったが、人生限りあり、歓楽遂に久しからずして、ヌーマ王は竟《つい》に崩御した。女神エジェリヤは始めて人界の哀別離苦
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