)はシラキュースの立法者であるが、当時民会ではしばしば闘争殺傷などの事があったので、彼は兵器を携えて民会に臨むことを厳禁し、これに違《たが》う者は死刑に処すべしとの法を立てた。或時ディオクレスは敵軍が国境に押寄せて来たという知らせを聞いて、剣を執って起ち、防禦軍を指揮せんがために戦場に赴《おもむ》こうとしたが、偶々《たまたま》途中で民会において内乱を起さんことを議しているという報知を得たので、直ちに引返し、民会に赴いてこれを鎮撫しようとした。
ディオクレス民会に到り、まさに会衆に向って発言しようとした時、叛民の一人は突然起立して、「見よディオクレスは剣を帯びて民会に臨んだ。彼は己れの作った法律を破った」と叫んだ。ディオクレスはこれを聴いて事急なるがために想わず法禁を破ったことを覚り、一言の内乱鎮撫に及ぶことなく、「誠に然り。ディオクレスは自ら作った法を行うに躊躇する者に非ず」と叫んで、直ちに剣を胸に貫いてその場に斃《たお》れた。
この至誠殉法の一語は、民会に諭《さと》す百万言よりも彼らの叛意を翻すに殊効《しゅこう》があったろうと思う。
ツリヤ人の立法者カロンダス(Charonda
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