同反抗は法の威権に対する大敵である。故に多くの国においては、共謀、同盟、その他合同して不法の行為をなそうとするときは、合同それ自身が独立の罪となり、または加重の原因となるものとしている。我旧幕時代の「徒党」や、イギリス法のConspiracyの如きものはその例である。合同反抗は最も力の強いものであることは勿論であるから、立法者が合同反抗を生ずべき法律を作ろうとするには、先ず充分にその反抗を抑圧し、またはこれを罰し得る実力と決心とがあるかどうかを考えた上で、その法を定めねばならぬ。
 この一例ともいうべき事が、最近にイギリスに起った。今回のヨーロッパの大戦乱について、イギリスはその軍需品の供給を充分にするために、新たに軍器省を置き、閣員中第一の敏腕家なるロイド・ジョーヂ氏を軍器大臣に任じ、また「軍器法」(Munitions Act)というを制定した。この法律の中には、軍需品製造に関係ある職工がストライキをした場合には、一人一日五ポンド(五十円)ずつの罰金に処するという規定がある。しかるに、この法律が出てから間もなく、有名な石炭産地カーディフを中心とした南ウェールス地方の石炭坑夫約二十万人の大ストライキが起った。さて困った事は彼の軍器法の励行である。戦争の急需に迫られて折角かくの如き厳重な法律は作って見たものの、かくの如き多数の違犯者が一時に出て来ては、この法律を実行することはとても出来ぬ。第一裁判所、裁判官、警察官その他の司法機関が足らぬ。その上に、一方では戦争の範囲が広まるに従って石炭の需要はますます急迫して来る。実際政府は如何ともすることが出来ないから、違犯者を罰するどころか、かえって軍器大臣ロイド・ジョーヂ氏は自らウェールスまで出懸けて行って、炭坑の持主と坑夫との双方を諭《さと》し、政府からも補助を与えて、幾分かストライキ坑夫即ち違法者の要求を容れて、それでようやく復業させることが出来たというような次第である。故に重刑をもって同盟罷業を防止しようとした折角の政策も、その始において物の見事に蹂躙《じゅうりん》され、その法律は生れて早々死法となってしまったのである。これで観ても、合同反抗を生ずることのあるべき法律を作るには、その実行の可能に関して充分な見込がないと、単にその法律が行われないばかりでなく、延いては一般に法の威厳を損ずるに至るものである。
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 八八 現行盗と非現行盗


 ローマの「十二表法」では、盗罪を分って現行盗(Furtum manifestum)および非現行盗(Furtum nec manifestum)の二種としている。
 この現行、非現行の区別の標準については、ローマの法曹間においても、既に議論が岐《わか》れて、種々の異説が存したことであって、第一説は、盗取行為をなしつつある間に発見逮捕せられる場合が現行盗、盗取行為終了後に発覚したものが非現行盗であるとし、第二説は、現場において発覚したと否とに依って区別し、第三説は、犯人が贓品を目的地に運搬し終るまで発見せられなかったことを非現行盗の要件とし、第四説は、犯人が偶《たまた》ま盗品を所持している際に発見逮捕せられた場合には、これまた現行盗であるとしておった。そして、ガーイウスは第二説を採り、ユスチニアーヌス帝は第三説を用いたが、要するに、盗犯を現行中の発見逮捕と現行後の発見逮捕とを標準として分類し、近世の法律における如く、盗の方法に依って強盗、窃盗と分つ分類法を用いなかったのは注目すべき点である。
 しかしなお一層注目すべきは、現行盗と非現行盗と、刑罰の軽重が非常に異なる事である。即ち現行盗の犯人は、もし自由人ならば笞刑《ちけい》に処した後《の》ち被害者に引渡してその奴隷となし(いわゆる身位喪失の刑)、奴隷ならば先ず笞《むちう》った後ちこれを死刑に処する。しかるに、非現行盗にあっては、犯人をして盗品の価額の二倍の贖罪金を被害者に支払わしむるに過ぎないのである。同一の犯行であって、単に逮捕の時の如何に依り、刑にこれほどの軽重を設けるのは、如何なる趣意であるか。近世の思想をもってしては、到底了解し得られないところであるが、法律なるものは私力が公権力化するに依って発生するものであるという法律進化の理法をもってすれば、この難問も釈然氷解するのである。けだし初期の刑法は、個人のなすべき復讐を国家が代って行うという観念に基づいて発生したものである。そして刑法なる国法を設ける目的が、私闘を禁じて団体員をしてその団体の公権力制裁に依頼せしむるというにあるならば、その公権力制裁の方法は、個人をして自力制裁を行いたいところを耐えて、国家の刑罰をもって満足せしめる程度のものでなくてはならぬ。どうしたら個人が満足するか。恐らく自力制裁の場合におけると類似の方法程度
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