黷ネい。けれども、あれは偶然の事です。」
“Believe me, gentlemen, if you remain here many days, you will yourselves perceive that when his Lordship shakes his head, there's, nothing in it.”
[#ここで字下げ終わり]
これに依って観ると、我輩がさきにアメリカ式と思うたのは、実はアイルランド式であって、かの某弁護士は、あるいは我輩より数十年前に既にカラン伝を読んでおったのかも知れない。
我輩はこのカランの逸話を読んで、三十年来の誤信を覚《さと》ったとき、つくづく吾人の知識の恃《たの》み難きものなることを嘆じ、更に自疑反省の必要の大なること感じた。
[#改ページ]
三六 女子の弁護士
昔ローマでは、女子が弁護士業を営むのを公許したことがあって、ホルテンシア(Hortensia)、アマシア(Amasia)などという錚々《そうそう》たる者もあったとか。しかるに、アフラニア(Afrania)という女子弁護人に、何か醜行があったために、忽ち女性弁護士禁止の説を惹き起し、遂にテオドシウス帝(Theodosius)をして、その法典中に禁令を加えしむるに至った。この論法をもって推すならば、男子にも弁護士業を禁ずることにせねばなるまい。
[#改ページ]
三七 処分可レ依二腕力一[#「レ一二」は返り点]
「古事談」に次の如き一奇話が載せてある。
覚融《かくゆう》僧正臨終の時に、弟子共が、遺財の処分を定め置きくれよと、頻りに迫った。僧正は一代の高徳、今や涅槃《ねはん》の境に入って、復《ま》た世塵の来り触るるを許さないのであるが、余りにうるさく勧められるので、遂に筆硯《ひっけん》を命じて一書を作り、これを衆弟子に授けて後《の》ち入寂《にゅうじゃく》した。衆弟子、その遺書に基づいて分配をなさんものと、打寄ってこれを開き見れば、定めて数箇条の定め書と思いの外、
[#ここから2字下げ、「レ一二」は返り点]
処分可レ依二腕力一
[#ここで字下げ終わり]
の六字を見るのみであった。衆僧これには大いに閉口し、まさかに掴《つか》み合いをする訳にも往かぬと、互に円い頭を悩しているとのことが、白河法皇の叡聞《えいぶん》に達し、遂に勅裁をもって
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