に輸入するには、訳語を作るの困難があるのみならず、その作った訳語は、素《も》と彼にあって我にない事物を指すのであるから、どうせ我国民に取っては新語である。故に彼の語の発音をそのままに我に取る方が彼我相通じてよいから、いっそ新字を製して直ちにこれに原音を発せしめて、原語と同視せしめる方がよいと考えられた。そこで省内に委員を置き、当時支那音に通じたる鄭永寧氏等をして法律語の新字を作らしめることとなったが、委員の案は明治十二年になり、その結果は同十六年に「法律語彙」と題して出版せられることとなった。同書は実に一千百七十余頁の大冊で、法律語をabcの順に並べ、これに訳語または新語、新字を附し、本義、釈解、参照をも添えてあって、実に本邦法律史上無類の奇書である。この書に載せてある新法律語およびその新字を作った標準については、「音釈字例」と題して鄭永寧氏が巻頭に記されたものの中に左の如く説明してある。
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一、茲《ここ》ニ堂諭ヲ奉シ、支那字ヲ用テ、法国律語ノ音ヲ釈ス、其|旨趣《しいしゅ》ハ、凡《およそ》原語ノ訳シ難キ者、及ビ之ヲ訳スルモ、竟《つい》ニ其義ヲ尽シ得ザル者ハ、皆仮リニ意訳ヲ下シ、別ニ漢字ヲ以テ、原字ノ音ヲ照綴《しょうてい》シ、更ニ之ヲ約併シテ、二字或ハ一字ニ帰納シ、其漢音ニ吻合《ふんごう》スルヲ以テ、洋音ヲ発シ、看者ノ之ヲ視ル、猶《なお》原語ヲ視ル如クナラシム、其漸次ニ約併セルハ、簡捷ヲ尚《とうと》ブ所以ナリ。
一、一字卜為セシ者、皆新様ニ似タレドモ、敢テ古人製字ノ法ヲ倣フニ非ズ、其旁画、動《やや》モスレバ疑似ニ渉ルヲ以テ、※[#「※」は「□冠」、168−1]※[#「※」は「□偏」、168−1]等ノ片爿ヲ加ヘ、故《ことさ》ラニ字形ヲ乱シ、以テ真字ト分別アルヲ示ス、且此字ニ音無ク義無シ、即原語ノ音ヲ縮メテ、此字ノ音卜為ス者ナリ。
一、新字ノ頭ニ、※[#「※」は「□冠」、168−4]アル者ハ、亜《ア》頭ノ語ナリ、他ノエ、イ、※[#「※」は「□偏」、168−4]、ユ、モ埃《エ》伊《イ》阿《オ》兪《ユ》頭ノ語ニシテ、<Aル者ハ、匐《べ》以下ノ単字頭ト知ルベシ。
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今、一例を挙げて見ると、「a」頭の語から作った新字には、皆「※[#※は□冠、168−6]」冠が附けてある。例えば、
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