たとえその発育されたる能力だけは天禀《てんぴん》の本量一尺に達するも、他の能力はおのずから活気を失うて枯死《こし》せざるをえず。文字を教うるは、ただ人の記憶力によるものにて、ただこの記憶力のみを発育する時は、他の推理の力、想像の働等はおのずから退縮せざるをえざるがゆえに、文字を教うるは、決してこれを有害のものというべからずといえども、ただこの一方に偏してこれを教育の主眼とする時は、人心の釣合を失して、いたずらに世に片輪者の数を増すの恐れあり。はなはだ慎むべきものにこそ。
底本:「福沢諭吉教育論集」岩波文庫、岩波書店
1991(平成3)年3月18日第1刷発行
底本の親本:「福澤諭吉全集 第12巻」岩波書店
1960(昭和35)年10月1日初版発行
1970(昭和45)年9月14日再版発行
初出:「時事新報」時事新報社
1889(明治22)年8月5日発行
入力:田中哲郎
校正:noriko saito
2009年10月29日作成
青空文庫作成ファイル:
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