夫婦|家《いえ》に居て親子・兄弟姉妹の関係を生じ、その関係について徳義の要用を感じ、家族おのおのこれを修めて一家の幸福いよいよ円満いよいよ楽し。即ち居家《きょか》の道徳なれども、人間|生々《せいせい》の約束は一家族に止《とど》まらず、子々孫々次第に繁殖すれば、その起源は一対の夫婦に出《いず》るといえども、幾百千年を経《ふ》るの間には遂に一国一社会を成すに至るべし。既に社会を成すときは、朋友の関係あり、老少の関係あり、また社会の群集を始末するには政府なかるべからざるが故に、政府と人民との関係を生じ、その仕組みには君臣の分を定むるもあり、あるいは君臣の名なきもあれども、つまり治むる者と治めらるる者との関係にして、その意味は大同小異のみ。斯《か》く広き社会の中に居て、一人と一人との間、また一種族と一種族との間に様々の関係あることなれば、その関係について、それぞれ守る所の徳義なかるべからず。即ち朋友に信といい、長幼に序といい、君臣または治者・被治者の間に義というが如く、大切なる箇条あり。これを人生|戸外《こがい》の道徳という。即ち家の外の道徳という義にして、家族に縁なく、広く社会の人に交
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