夜自分は深更《しんこう》家に帰りて面目《めんぼく》なかりしが、今夜は妻女|何処《いずく》に行きしや、その場所さえ分明ならずなどの奇談もあるべしと想像したらば、さすがに磊落《らいらく》なる男子も慚愧《ざんき》に堪えざるのみならず、これは世教《せいきょう》のために大変なりとて、自ら悚然《しょうぜん》たることならん。然るに婦女子の志の有形無心の文明に誘《いざな》われて漸《ようや》く活溌に移るの最中、あるいはこの想像画をして実ならしむるなきを期すべからず、恐るべきにあらずや。男子の不品行は既に日本国の禍源たり、これに加うるに女子の不品行を以てす、国のために不幸を二重にするものというべし。男子社会の不品行にして忌憚《きたん》するなきその有様は、火の方《まさ》に燃ゆるが如し。徳教の急務は百事を抛《なげう》ち先ずこの火を消すにあるのみ。婦人の地位を高尚にするの新案は、あたかも我が国|未曾有《みぞう》の家屋を新築するものにして、我輩|固《もと》より意見を同じうするのみならず、敢えて発起者中の一部分を以て自ら居《お》る者なれども、満目《まんもく》焔々《えんえん》たる大火の消防に忙《せ》わしくして、なお未
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