これを恐るること非常にして、精神を腐敗せしむるの不品行は、世間に同行者の多きがためにとて自らこれを犯して罪を免れんとす。無稽《むけい》もまた甚だしというべし。故にかの西洋家流が欧米の著書・新聞紙など読みてその陰所の醜を探り、ややもすればこれを公言して、以て冥々《めいめい》の間に自家の醜を瞞着《まんちゃく》せんとするが如き工風《くふう》を運《めぐ》らすも、到底《とうてい》我輩の筆鋒を遁《のが》るるに路《みち》なきものと知るべし。
 日本男子の内行不取締は、その実《じつ》において既に厭《いと》うべきもの少なからざるなおその上に、古来習俗の久しき、醜を醜とせずして愧《は》ずるを知らざるのみならず、甚だしきに至りて、その狼藉《ろうぜき》無状《ぶじょう》の挙動を目して磊落《らいらく》と称し、赤面の中に自《おの》ずから得意の意味を含んで、世間の人もこれを許して問わず、上流社会にてはその人を風流才子と名づけて、人物に一段の趣《おもむき》を添えたるが如くに見え、下等の民間においても、色は男の働きなどいう通語を生じて、かつて憚《はばか》る所なきは、その由来、けだし一朝一夕のことにあらず。我が王朝文弱の時
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