て、甚だ大切なるものなれども、人に教うるに先ずこの公徳を以てして、居家の私徳を等閑《なおざり》にするにおいては、あたかも根本の浅き公徳にして、我輩は時にその動揺なきを保証する能《あた》わざるものなり。
そもそも一国の社会を維持して繁栄幸福を求めんとするには、その社会の公衆に公徳なかるべからず。その公徳をして堅固ならしめんとするには、根本を私徳の発育に取らざるべからず。即ち国の本は家にあり。良家の集まる者は良国にして、国力の由《よ》って以《もっ》て発生する源は、単に家にあって存すること、更に疑うべきにあらず。然《しか》り而《しこう》してその家の私徳なるものは、親子・兄弟姉妹、団欒《だんらん》として相親しみ、父母は慈愛厚くして子は孝心深く、兄弟姉妹相助けて以て父母の心身の労を軽くする等の箇条にして、能《よ》くこの私徳を発達せしむるその原因は、家族の起源たる夫婦の間に薫《くん》ずる親愛恭敬の美にあらざるはなし。
およそ古今世界に親子不和といい兄弟姉妹相争うというが如き不祥の沙汰《さた》少なからずして、当局者の罪に相違はなけれども、一歩を進めて事の原因を尋ぬれば、その父母たる者が夫婦の関係
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