ープ[#「プ」は底本では「ブ」]ルトンの黄色がその中の先頭を切っていたが、私達の前まで来た時はデスボロは力つきて出足鈍り、大佐の馬は突進してそれを抜き、決勝点に入った時は、優に六馬身の差があった。バルモーラル公のアイリス号はずっとおくれて三着になった。
「とにかく、勝《かつ》には勝った」
大佐はホッとして、手で両眼《りょうがん》を拭き払いながら、
「しかし、正直なところ私には何が何んだかさっぱり分りません。ホームズさん、もういい加減に教えて下すってもよくはありませんか」
「申し上げましょう。何もかも申し上げましょう。みんなであっちへ行って馬を見てやりましょう。ここにいますよ」
ホームズは馬主とその連れだけしか入《い》れない重量検査所へ入って行きながら、
「この馬の顔と脚とをアルコールで洗っておやりなさい。そうすればもとのままの白銀だということが分りますから」
「えッ! これあ驚きましたな!」
「あるいかさま師の手に入っていたのを見つけ出して、勝手ながらその時のままの姿で出場させたわけです」
「どうもあなたの慧眼は驚くべきものです。馬は非常に調子がいいようです。全く今までになかったいい調子です。あなたの手腕を疑ぐったりして、なんと謝罪していいか分りません。こうして大切な馬を取戻して下すったのですから、この上はジョン・ストレーカ殺しの犯人を見つけて下されば、これに越す幸いはありません」
「加害者も捕えておきました」
ホームズはすましていった。
大佐は無論、私までも驚いて彼の顔を眺めやった。
「えッ! 捕まったって? どこにいます? それでは?」
「ここにいます」
「ここに? どこです?」
「今現に我々と一緒にいます」
大佐はこの一語にカッとなって、
「ホームズさん、あなたのおかげを受けてることは十分認めもし、感謝もしていますが、只今のお言葉は冗談にしては少し重すぎはしませんか。あなたは私を侮辱しますか!」
ホームズは笑っていった。
「大佐、あなたを何も犯人だと申したのではありませんよ。真犯人はあなたのすぐ後に立っていますよ」
ロス大佐は進みよって、名馬の沢《つや》やかな額に手をかけたが、急に気がついて、
「馬がッ!」
と叫んだ。私も同時に叫んだ。
「そうです、馬がです。ジョン・ストレーカは全然あなたの信頼するに足りない男であります、馬は正当防禦のために殺
前へ
次へ
全27ページ中22ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
福沢 諭吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング