ほど、その保証はあった」
大佐は冷笑を浮べて、
「保証よりは馬を早く戻してもらった方がいい」
私がホームズのために弁明しようとしたところへ、彼は入って来た。
「それでは皆さん、いつでもタヴィストックへお供いたしましょう」
私達が馬車に乗ろうとすると、一人の若者が扉《ドア》を押えていてくれた。ホームズはつと何か考えついたらしく若者の袖を引いて訊ねた。
「調馬場の柵の中に羊が少しいるようだが、誰が世話するのかね?」
「私がやりますんで」
「近頃何か羊に変ったことはなかったかね?」
「へえ、大したこともございませんが、三頭だけどういうものか跛《ちんば》になりましたんで」
ホームズはいと満足げだった。ニッコリと笑って、頻りに両手をこすり合せていた。
「大変な想像だよ、ワトソン君、非常に大胆な想像が当ったよ。グレゴリさん、羊の中に妙な病気が流行しているのは、大《おおい》に御注意なさったらいいと思います。じゃ、馭者君やって下さい」
ロス大佐は依然としてホームズを軽蔑するらしい顔をしていたが、警部はいたく注意を喚起させられたらしかった。
「あなたはそれを重大視されますか?」
警部はいった。
「極めて重大視します」
「その他何か私の注意すべきことはないでしょうか?」
「あの晩の犬の不思議な行動に御注意なさるといいでしょう」
「犬は全然何もしなかったはずですが」
「そこが不思議な行動だと申すのです」
それから四日たって私達はウェセクス賞杯争覇戦を見るために、再びウィンチェスタ行の汽車に乗った。約束通りロス大佐は停車場の入口まで来て待っていてくれたので、私達はそのまま大佐の四頭立《よんとうだて》馬車で市はずれの競馬場へ向った。大佐はひどく暗い顔をして、更に元気がなかった。
「私の馬を一向見かけないようですがね」
大佐はいった。
「ごらんになれば御自分の馬だからお分りになるでしょう」
ホームズはそういった。
大佐はムッとして、
「私は二十年来競馬場に出入りしているが、只今のようなお訊ねを受けるのは始めてです。あの馬の純白の額と、斑の前脚とを見れば、子供にだって分ることです」
「賭けはどんな模様です」
「その点だけはどうも妙です。昨日なら十五対一でも売り手があったのに、だんだん差が少くなって、今では三対一でもどうですかな」
「ふむ!」ホームズは独りごちて、
「何か知っ
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