政治社会に入らざるはなし。その人の罪に非ず。風潮の然《しか》らしむるところなり。
 今の風潮は、天下の学生を駆りてこれを政治に入らしむるものなるを、世の論者は、往々その原因を求めずして、ただ現在の事相に驚き、今の少年は不遜《ふそん》なり軽躁《けいそう》なり、漫《みだり》に政治を談じて身の程を知らざる者なりとて、これを咎《とがむ》る者あれども、かりにその所言にしたがいてこれを酔狂人とするも、明治年間今日にいたりてにわかに狂すべきに非ず。その狂や必ず原因あるべし。その原因とは何ぞや。学生にして学問社会に身を寄すべきの地位なきもの、すなわちこれなり。その実例はこれを他に求むるを須《ま》たず、あるいは論者の中にもその身を寄する地位を失わざらんがために説を左《ひだり》し、また、その地位を得たるがために主義を右《みぎ》したることもあらん。これを得て右したる者は、これを失えば、また左すべし。何ぞ現在の左右を論ずるに足らんや。自身にしてかくの如し。他人もまたかくの如くなるべし。伐柯其則不遠《えをきるそののりとおからず》、自心をもって他人を忖度《そんたく》すべし。
 人の心を鎮撫するの要は、その身を安か
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