むるの労に酬《むく》いるに非ずして、ただ普通なる日本人の資格をもって、政府の官職をも勤むるほどの才徳を備え、日本国人の中にて抜群の人物なりとて、その人物を表するの意ならん。官吏の内にても、一等官の如きはもっとも易《やす》からざる官職にして、尋常の才徳にては任に堪え難きものなるに、よくその職を奉じて過失もなきは、日本国中|稀有《けう》の人物にして、その天稟《てんぴん》の才徳、生来の教育、ともに第一流なりとて、一等勲章を賜わりて貴き位階を授くることならん。
 されば官吏が職を勤むるの労に酬いるには月給をもってし、数をもっていえば、百の労と百の俸給とまさしく相対して、その有様はほとんど売買の主義に異ならず。この点より論ずるときは、仕官もまた営業|渡世《とせい》の一種なれども、俸給の他に位階勲章をあたうるは、その労力の大小にかかわらず、あたかも日本国中の人物を排列してその段等《だんとう》を区別するものにして、官途にはおのずから抜群の人物多きがゆえに、位階勲章を得る者の数も官途に多きゆえんなり。政府の故意《こい》にして、ことさらに官途の人のみにこれをあたうるに非ず、官職の働はあたかも人物の高低を
前へ 次へ
全44ページ中27ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
福沢 諭吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング