ども、その学問の風《ふう》をかくの如くして、その教授の書籍は何を用いて何を読むべからずなどと、教場の教授法にまで命令を下すが如きは、また事のよろしからざるものと信ず。これを要するに、学問上の事は一切学者の集会たる学事会に任し、学校の監督報告等の事は文部省に任して、いわば学事と俗事と相互《あいたがい》に分離し、また相互に依頼して、はじめて事の全面に美をいたすべきなり。
たとえば海陸軍においても、軍艦に乗りて海上に戦い、馬に跨《またがっ》て兵隊を指揮するは、真に軍人の事にして、身みずから軍法に明らかにして実地の経験ある者に非ざれば、この任に堪えず。されども海陸軍、必ずしも軍人のみをもって支配すべからず。軍律の裁判には、法学士なかるべからず。患者のためには、医学士なかるべからず。行軍の時に、輜重《しちょう》・兵粮《ひょうろう》の事あり。平時にも、もとより会計簿記の事あり。その事務、千緒万端《せんしょばんたん》、いずれも皆、戦隊外の庶務にして、その大切なるは戦務の大切なるに異ならず、庶務と戦務と相互《あいたがい》に助けて、はじめて海陸軍の全面を維持するは、あまねく人の知るところならん。
然
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