》に「愚民の上に苛《から》き政府あり」とはこのことなり。こは政府の苛きにあらず、愚民のみずから招く災《わざわい》なり。愚民の上に苛き政府あれば、良民の上には良き政府あるの理なり。ゆえに今わが日本国においてもこの人民ありてこの政治あるなり。仮りに人民の徳義今日よりも衰えてなお無学文盲に沈むことあらば、政府の法も今一段厳重になるべく、もしまた、人民みな学問に志して、物事の理を知り、文明の風に赴《おもむ》くことあらば、政府の法もなおまた寛仁大度の場合に及ぶべし。法の苛《から》きと寛《ゆる》やかなるとは、ただ人民の徳不徳によりておのずから加減あるのみ。人誰か苛政を好みて良政を悪《にく》む者あらん、誰か本国の富強を祈らざる者あらん、誰か外国の侮りを甘んずる者あらん、これすなわち人たる者の常の情なり。今の世に生まれ報国の心あらん者は、必ずしも身を苦しめ思いを焦がすほどの心配あるにあらず。ただその大切なる目当ては、この人情に基づきてまず一身の行ないを正し、厚く学に志し、博《ひろ》く事を知り、銘々の身分に相応すべきほどの智徳を備えて、政府はその政《まつりごと》を施すに易《やす》く、諸民はその支配を受け
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