べき道すでに開けたることなれば、よくその身分を顧み、わが身分を重きものと思い、卑劣の所行あるべからず。およそ世の中に無知文盲の民ほど憐《あわ》れむべくまた悪《にく》むべきものはあらず。智恵なきの極《きわ》みは恥を知らざるに至り、己《おの》が無智をもって貧窮に陥り飢寒に迫るときは、己が身を罪せずしてみだりに傍《かたわら》の富める人を怨み、はなはだしきは徒党を結び強訴《ごうそ》・一揆《いっき》などとて乱暴に及ぶことあり。恥を知らざるとや言わん、法を恐れずとや言わん。天下の法度《ほうど》を頼みてその身の安全を保ち、その家の渡世をいたしながら、その頼むところのみを頼みて、己が私欲のためにはまたこれを破る、前後不都合の次第ならずや。あるいはたまたま身本《みもと》慥《たし》かにして相応の身代ある者も、金銭を貯《たくわ》うることを知りて子孫を教うることを知らず。教えざる子孫なればその愚なるもまた怪しむに足らず。ついには遊惰放蕩に流れ、先祖の家督をも一朝の煙となす者少なからず。
かかる愚民を支配するにはとても道理をもって諭《さと》すべき方便なければ、ただ威をもって畏《おど》すのみ。西洋の諺《ことわざ
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