も、おのずからまた善政良法あるにあらざれば政府の名をもって若干の年月を渡るべき理なし。
 ゆえに一朝の妄動にてこれを倒すも、暴をもって暴に代え、愚をもって愚に代うるのみ。また内乱の源を尋ぬれば、もと人の不人情を悪《にく》みて起こしたるものなり。しかるにおよそ人間世界に内乱ほど不人情なるものはなし。世間朋友の交わりを破るはもちろん、はなはだしきは親子相殺し兄弟相敵し、家を焼き人を屠《ほふ》り、その悪事至らざるところなし。かかる恐ろしき有様にて人の心はますます残忍に陥り、ほとんど禽獣《きんじゅう》とも言うべき挙動をなしながら、かえって旧の政府よりもよき政を行ない寛大なる法を施して天下の人情を厚きに導かんと欲するか。不都合なる考えと言うべし。
 第三 正理を守りて身を棄つるとは、天の道理を信じて疑わず、いかなる暴政の下に居ていかなる苛酷の法に窘しめらるるも、その苦痛を忍びてわが志を挫《くじ》くことなく、一寸の兵器を携えず片手の力を用いず、ただ正理を唱えて政府に迫ることなり。以上三策のうち、この第三策をもって上策の上とすべし。理をもって政府に迫れば、その時その国にある善政良法はこれがため少しも
前へ 次へ
全187ページ中74ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
福沢 諭吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング