成功を期すべきなり。西洋諸国の史類を案ずるに、商売・工業の道、一として政府の創造せしものなし、その本《もと》はみな中等の地位にある学者の心匠に成りしもののみ。蒸気機関はワットの発明なり、鉄道はステフェンソンの工夫《くふう》なり、はじめて経済の定則を論じ商売の法を一変したるはアダム・スミスの功なり。この諸大家はいわゆるミッヅル・カラッスなる者にて、国の執政にあらず、また力役《りきえき》の小民にあらず、まさに国人の中等に位し、智力をもって一世を指揮したる者なり。その工夫発明、まず一人の心に成れば、これを公にして実地に施すには私立の社友を結び、ますますその事を盛大にして人民無量の幸福を万世に遺《のこ》すなり。この間に当たり政府の義務は、ただその事を妨げずして適宜に行なわれしめ、人心の向かうところを察してこれを保護するのみ。
ゆえに文明の事を行なう者は私立の人民にして、その文明を護する者は政府なり。これをもって一国の人民あたかもその文明を私有し、これを競いこれを争い、これを羨みこれを誇り、国に一の美事あれば全国の人民手を拍《う》ちて快と称し、ただ他国に先鞭を着けられんことを恐るるのみ。ゆえに
前へ
次へ
全187ページ中51ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
福沢 諭吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング