れわれは客分のことなるゆえ一命を棄つるは過分なりとて逃げ走る者多かるべし。さすればこの国の人口、名は百万人なれども、国を守るの一段に至りてはその人数はなはだ少なく、とても一国の独立は叶《かな》い難きなり。
 右の次第につき、外国に対してわが国を守らんには自由独立の気風を全国に充満せしめ、国中の人々、貴賤《きせん》上下の別なく、その国を自分の身の上に引き受け、智者も愚者も目くらも目あきも、おのおのその国人たるの分を尽くさざるべからず。英人は英国をもってわが本国と思い、日本人は日本国をもってわが本国と思い、その本国の土地は他人の土地にあらず、わが国人の土地なれば、本国のためを思うことわが家を思うがごとし。国のためには財を失うのみならず、一命をも抛《なげう》ちて惜しむに足らず。これすなわち報国の大義なり。
 もとより国の政《まつりごと》をなす者は政府にて、その支配を受くる者は人民なれども、こはただ便利のために双方の持ち場を分かちたるのみ。一国全体の面目にかかわることに至りては、人民の職分として政府のみに国を預け置き、傍《かたわら》よりこれを見物するの理あらんや。すでに日本国の誰、英国の誰と、
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