一方のみを論ずれば弊害あらざるものなし。かの士君子が世間の栄誉を求めざるは大いに称すべきに似たれども、そのこれを求むると求めざるとを決するの前に、まず栄誉の性質を詳《つまび》らかにせざるべからず。その栄誉なるもの、はたして虚名の極度にして、医者の玄関、売薬の看板のごとくならば、もとよりこれを遠ざけ、これを避くべきは論を俟《ま》たずといえども、また一方より見れば社会の人事は悉皆《しっかい》虚をもって成るものにあらず。人の智徳はなお花樹のごとく、その栄誉人望はなお花のごとし。花樹を培養して花を開くに、なんぞことさらにこれを避くることをせんや。栄誉の性質を詳らかにせずして、概してこれを投棄せんとするは、花を払いて樹木の所在を隠すがごとし。これを隠してその功用を増すにあらず、あたかも活物を死用するに異ならず、世間のためを謀《はか》りて不便利の大なるものと言うべし。
しからばすなわち栄誉人望はこれを求むべきものか。いわく、然り、勉めてこれを求めざるべからず。ただこれを求むるに当たりて分に適すること緊要なるのみ。心身の働きをもって世間の人望を収むるは、米を計りて人に渡すがごとし。升《ます》取りの
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