をしてこの通義を遂げしむるの仕掛けを設けたるものなれば、なんらのことあるも人力をもってこれを害すべからず。
大名の命も人足の命も、命の重きは同様なり。豪商百万両の金も、飴やおこし[#「おこし」に傍点]四文の銭も、己《おの》がものとしてこれを守るの心は同様なり。世の悪《あ》しき諺に、「泣く子と地頭《じとう》には叶《かな》わず」と。またいわく、「親と主人は無理を言うもの」などとて、あるいは人の権理通義をも枉《ま》ぐべきもののよう唱うる者あれども、こは有様と通義とを取り違えたる論なり。地頭と百姓とは、有様を異にすれどもその権理を異にするにあらず。百姓の身に痛きことは地頭の身にも痛きはずなり、地頭の口に甘きものは百姓の口にも甘からん。痛きものを遠ざけ甘きものを取るは人の情欲なり他の妨げをなさずして達すべきの情を達するはすなわち人の権理なり。この権理に至りては地頭も百姓も厘毛の軽重あることなし。ただ地頭は富みて強く、百姓は貧にして弱きのみ。貧富、強弱は人の有様にてもとより同じかるべからず。
しかるに今、富強の勢いをもって貧弱なる者へ無理を加えんとするは、有様の不同なるがゆえにとて他の権理を害
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