すれば、双方の間に智力の交際を始めたるものというべし。この交際はいずれも皆人民の身の上に引受け、人々その責《せめ》に任ずべきものにして、政府はあたかも人民の交際に調印して請人《うけにん》に立ちたる者の如し。
ゆえに、貿易に不正あれば、商人の恥辱なり、これによりて利を失えば、その愚なり。学芸の上達せざるは、学者の不外聞なり、工業の拙なるは、職人の不調法なり。智力発達せずして品行の賤《いや》しきは、士君子の罪というべし。昔日《せきじつ》鎖国の世なれば、これらの諸件に欠点あるも、ただ一国内に止まり、天に対し同国人に対しての罪なりしもの、今日にありては、天に対し同国人に対し、かねてまた外国人に対して体面を失し、その結局は我が本国の品価を低くして、全国の兄弟ともにその禍を蒙るのみならず、二千余年の独立を保ちし先人をも辱《はずか》しむるにいたるべし。これを重大といわずして何物を重大といわん。
また試みに見よ、今の西洋諸国は果して至文至明の徳化にあまねくして、その人民は皇々如《こうこうじょ》として王者の民の如くなるか。我が人民の智力学芸に欠点あるも、よくこれを容《い》れてその釁《ひま》に切込むこ
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