意にして、結局は政府と学者と直接の関係を止め、ともに高尚の域に昇りて永遠重大の喜憂をともにせんとするの旨を述べたるものなり。たとえばここに一軒の家あらん。楼下は陋《いや》しき一室にして、楼上には夥多《あまた》の美室あり。地位職分を殊にする者が、この卑陋《ひろう》なる一室に雑居して苦々《にがにが》しき思をなさんより、高く楼に昇りてその室を分ち、おのおの当務の事を務むるはまた美ならずや。室を異にするも、家を異にするに非ず。居所高ければもって和すべく、居所|卑《ひく》ければ和すべからざるの異《い》あるのみ。
末段にいたり、なお一章を附してこの編を終えん。すべて事物の緩急軽重とは相対したる意味にて、これよりも緩なり彼よりも急なりというまでのことなれば、時の事情によりて、緩といえば緩ならざるはなし、急といえば急ならざるはなし。この緩急軽重の判断にあたりては、もっとも心情の偏重によりて妨げらるるものなり。ゆえに今政府の事務を概して尋ぬれば、大となく小となく悉皆《しっかい》急ならざるはなしといえども、逐一《ちくいち》その事の性質を詳《つまびらか》にするときは、必ず大いに急ならざるものあらん。また、
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