となく、永く対立の交際をなして、これに甘んずる者か。余輩断じてその然《しか》らざるを証す。結局双方の智力たがいに相|頡頏《きっこう》するに非ざれば、その交際の権利もまた頡頏すべからざるなり。交際の難《かた》きものというべし。而《しこう》してその難きとは、何事に比すれば難く、何物に比すれば易きや。今の日本の有様にては、これを至難にして比すべきものなしといわざるをえず。然らばすなわち、国の独立は重大なり、外国の交際は至難なり。学者はこの重大至難なる責《せめ》に当るも、なおかつこれをかえりみず、区々たる政府に迫りてただちに不平を訴え、ますますその拙陋《せつろう》を示さんと欲するか。事物の難易軽重を弁ぜざる者というべし。
ゆえにいわく、今の時にあたりては、学者は区々たる政府の政《まつりごと》を度外に置き、政府は瑣々《ささ》たる学者の議論を度外に置き、たがいに余地を許してその働《はたらき》をたくましゅうせしめ、遠く喜憂の目的をともにして間接に相助くることあらば、民権も求めずして起り、政体も期せずして成り、識《し》らず知らず改進の元素を発達して、双方ともに注文通りの目的に達すべきなり。
底本:「福沢諭吉教育論集」岩波文庫、岩波書店
1991(平成3)年3月18日第1刷発行
底本の親本:「福沢諭吉選集 第3巻」岩波書店
1980(昭和55)年12月18日第1刷発行
初出:「学者安心論」
1876(明治9)年4月発行
入力:田中哲郎
校正:noriko saito
2008年3月24日作成
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