小万に酌をさせて、一息に呑むことは飲んだが、酒が口一杯になッたのを、耐忍《がまん》してやッと飲み込んだ。
「ねえ、小万さん。あの時のお酒が毒になるなら、このお酒だッて毒になるかも知れないよ。なアに、毒になるなら毒になるがいいんさ。死んじまやアそれッきりじゃアないか。名山さんと千鳥さんがあんないやな顔をしておいでだよ。大丈夫だよ、安心してえておくんなさいましだ。死んで花実が咲こかいな、苦しむも恋だって。本統にうまいことを言ッたもんさね。だもの、誰がすき[#「すき」に傍点]好んで、死ぬ馬鹿があるもんかね。名山さん、千鳥さん、お前さんなんぞに借りてる物なんか、ふんで死ぬような吉里じゃアないからね、安心してえておくんなさいよ。死ねば頓死《とんし》さ。そうなりゃ香奠《こうでん》になるんだね。ほほほほほ。香奠なら生きてるうちのことさ。此糸さん、初紫さん、香奠なら今のうちにおくんなさいよ。ほほ、ほほほほ」
「あ、忘れていたよ。東雲《しののめ》さんとこへちょいと行くんだッけ」と、初緑が坐を立ちながら、「吉里さん、お先きに。花魁、また後で来ますよ」と、早くも小万の室を出た。此糸も立ち、初紫も立ち、千鳥も
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