の朝ようやく去《かえ》ッた。それは吉里が止めておいたので、平田が別離《わかれ》に残しておいた十円の金は、善吉のために残りなく費《つか》い尽し、その上一二枚の衣服《きもの》までお熊の目を忍んで典《あず》けたのであッた。
それから後、多くは吉里が呼んで、三日にあげず善吉は来ていた。十二月の十日ごろまでは来たが、その後は登楼《あがる》ことがなくなり、時々|耄碌頭巾《もうろくずきん》を冠《かぶ》ッて忍んで店まで逢いに来るようになッた。田甫《たんぼ》に向いている吉里の室の窓の下に、鉄漿溝《おはぐろどぶ》を隔てて善吉が立ッているのを見かけた者もあッた。
十
午時《ひる》過ぎて二三時、昨夜《ゆうべ》の垢《あか》を流浄《おとし》て、今夜の玉と磨《みが》くべき湯の時刻にもなッた。
おのおの思い思いのめかし[#「めかし」に傍点]道具を持参して、早や流しには三五人の裸美人《らびじん》が陣取ッていた。
浮世風呂に浮世の垢を流し合うように、別世界は別世界相応の話柄《はなし》の種も尽きぬものか、朋輩《ほうばい》の悪評《わるくち》が手始めで、内所の後評《かげぐち》、廓内《くるわ》の評判、検査場
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