と直ちに私の口から出て来る歌がある。それは 鎌倉の由井が浜辺の松も聞け君と我とは相思ふ人 といふ歌である。「佐保姫」に出てゐるが、明治四十一年だと思ふ、私の動坂の寓居の歌会で作られたものである。はじめ互選の際作者を知らぬ儘に余りあらはなので私がけなしつけた処、後でそれが晶子さんのだと分つて、私の感じは不思議に表裏一転し忽ち之を讃美するやうになつた。さういふことがあつたので、今でも忘れないでゐる。若い人よ、歌を作るなら大胆に率直にこんな風に作つて見たら如何ですか。
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黒髪は王者を呼ぶに力わびず竜馬来たると春の風聴く
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これは第二集「小扇」(明治三十七年一月出版)の巻尾の歌で、調子の出来上つた後の作であるが、内容は「乱れ髪」を特色づける凛々たる勇気を誇示して恥ぢない歌だ。若い女が何物をも動かさずには置かない自らのはちきれさうな力を讃へるもので、日本文学にはそれまであまりなかつた思想である。春風を竜馬の訪れと聞くなど驚くべき矜貴といふべきである。 罪多き男こらせと肌きよく黒髪長くつくられし我 とか又有名な やは肌のあつき血汐に触れも見でさび
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