替へれば明治新調の成立したのは明治三十六年頃の事で、それ以前を私は発酵時代と名づける。さうして「乱れ髪」はその混沌たる発酵時代を代表してゐるのである。試みに開巻第一の歌 夜の帳にさきめきあまき星の今を下界の人の鬢のほつれよ を取つて見よう。あの星のまたたくのを見てゐると天上界では人々翠帳にこもつて甘語しきりなるを思はせるのに、その同じ時下界の私は一人で悶々としてゐるといふ様な意味に解せられるが、「星の今を」など随分無理な言ひ廻しであり、終りの「よ」なども困りものである。しかし詩の内容と外形とは二にして実は一つのものであるから、作者と雖後になつては之を如何ともしかたがなかつたものと思はれる。その「乱れ髪」の中にも相当調つた歌が少しはある。秀歌選には二十二首採つたが、この黒髪の歌もその一つで、私は之を開巻第一首とした。乱れ髪といふ本の名がどこから来たものか、つひ質さずにしまつたが、或はこの歌などから採られたのではないかとも思はれる。私はさう思つて秀歌選ではその「乱れ髪」の巻のはじめに置いて見たのである。一人孤閨にあつて思ひ乱れる麗人の心緒を髪の乱れに具象した作でそれだけのものであるが、髪の
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