ひぬ愛宕《をたぎ》の郡
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 晶子秀歌選を作るに当つて私はそのプレリウドの一つに「古京の歌」なる小題を設け、八十五首を収めた。曰く「年二十四で上京される迄両親の膝下で見聞された京畿の風物は深く作者の脳裡に刻み込まれてゐて、上京後も長い間ここに詩材を求められた。舌足らずの感ある初期の作中でも京の舞姫を歌つたものは難が少い。風物鑑賞は作者の最も得意とする処で本集後半の歌の大部分はこの種類に属してゐるがそれが早期にあらはれた分中、京畿を対象とするものを収めた」と。そこで鑑賞の方も若い面はしばらく「古京の歌」ばかりになる。この歌も別に説明を要しない。唯上等の読者はその中に鶯の囀るやうな音楽を聴き分けることが出来るに違ひない。

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法師の湯廊を行き交ふ人の皆十年ばかりは事無かれかし
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 法師温泉は今時珍しい山の中の温泉で電灯さへない。温泉は赤谷川の川原を囲つたやうな原始的な作りで、長い廊下でおも家と結ばれてゐる。そこで湯に入る為に「廊を行き交ふ」ことになる。私は十余年を隔ててゆくりなくもまた法師湯に浸つた。しかしその間に私に
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