あつた。
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十余年我が書き溜めし草稿のあとあるべしや学院の灰
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作者の新訳源氏物語の出たのは與謝野寛年譜によると大正元年になつてゐるが如何ももつと前のやうな気がする。この草稿といふのはそれは併し文語体を以てした抄訳であつた。詳細を極めた源氏の講義録のやうなものでそれを土台にして完訳を試みる積りであつたらしい。何しろ異常な精力をかつて十年間に書き溜めたのだから厖大な嵩のもので、麹町の家に置くことを危険として文化学院にあづけて置いたものである。それを焼いてしまつたのだからその失望の程思ひやられる。しかしその灰からフエニツクスのやうに復活したのが一人となつて晩年に書き出して遂に完成した新々訳源氏物語である。それがまるで創作のやうによくこなれてゐて他人の追随を許さないのも遠因はここにあるのである。
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鈴虫が何時蟋蟀に変りけん少し物などわれ思ひけん
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鈴虫を聴いて居た筈であつたのに、どうしたことか蟋蟀が鳴いてゐる。いつの間に鈴虫は鳴き止んだのであらう、また何時蟋蟀が之に代つたのであらう、私は何
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