山の立たずまひである。
[#ここから2字下げ]
山涼し馬を雇はん値をばもろともに聞く初秋の月
[#ここで字下げ終わり]
同じ行赤倉を出て渋の奥にある上林温泉へ廻つたが環境がもの足りなかつたのでも少し奥へ這入りたかつた。ここから上州白根へ抜ける路に発甫《ほつぽ》といふ小温泉のあることが温泉案内に書かれてある。しかし馬でなければ行かれぬ。そこで馬子を呼んで貰つて打ち合せをした。初秋の月がその相談を上から聞いて居た。しかし雨が降つたか如何かしてこの発甫行きは実現しなかつた。
[#ここから2字下げ]
大木の倒さるゝ事幾度ぞ胸をば深き森と頼めど
[#ここで字下げ終わり]
千古斧鉞を入れぬ処女林のやうに思つて頼みにして来た我が胸にもいつの間にやら忍び入るものがあつてその度に大木が地響打つて伐り倒された。ああ人生の悲劇、幾度か幕が降りたがどこ迄続いて行くのであらう。
[#ここから2字下げ]
賜りし牡丹に代りもの云はん長安の貴女人を怨まず
[#ここで字下げ終わり]
天下無双の容色を誇り帝寵を一身に集むる楊貴妃のやうな女に人を怨むといふことはない。牡丹の花を見るに、海棠の雨に濡れて怨む
前へ
次へ
全349ページ中308ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
平野 万里 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング