足らぬを示す蘆原の中
[#ここで字下げ終わり]

 安東で鴨緑江を見に行つた。岸には蘆が繁つてゐる。その蘆の一本に尺取虫がゐて、しきりに茎を上つて行く、それを見て居て分つたことだが、この国境の大河鴨緑江の幅も尺取のはかる茎の長さを以て測れば三尺にも足りないことであつた。虫の世界ではさういふ風に物をはかるのだらうが面白いことである。虫に代つて鴨緑江の幅を測量したわけである。

[#ここから2字下げ]
子を思ふ不浄の涙身を流れ我一人のみ天国を墜つ
[#ここで字下げ終わり]

 芸は長く命は短しといふが、芸術の都巴里を天国とすれば、私の場合には子を思ふ人間性即ち短い命の方が勝ちを占め、その為一人だけ天国を追はれて帰つて来たのである。

[#ここから2字下げ]
江の中の筏憩へる小景に女もまじり懐かしきかな
[#ここで字下げ終わり]

 大陸の大きな河を流れる筏は頗るのんびりしたもので、日本の筏とはその心持が丸で違ふ。日本の筏に女が乗る事などは決してあるまい。採木公司の筏がついて憩んでゐるのを見ると女が乗つてゐる。それが女性である作者の目に珍しく懐しく映つたのである。

[#ここから2字下げ]

前へ 次へ
全349ページ中251ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
平野 万里 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング