忍びて書きし跡見れば我が文ながら涙こぼるゝ
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 親のもとに居た頃の昔の手紙が、探し物をしてゐると思ひがけなく出て来た。試みに読んで見ると無理をして人にかくれて書いた様子がはつきり出てゐて、その頃のことが思ひ出され涙がぽろぽろ落ちて来た。

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風起り藤紫の波動く春の初めの片山津かな
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 昭和六年一月、北陸吟行の途上、片山津温泉に泊した時の作。私はその地を知らないので何とも云へないが、いかにも春の初めらしい気持のよい出来なので幾度か朗誦してあきることがない。

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めでたきもいみじきことも知りながら君とあらんと思ふ欲勝つ
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 斯うすれば富貴も得られ幸福も得られるといふ途を私はよく知つてゐる。それにも拘らず、あなたと一しよに居たいと思ふ欲の方が勝つて貧しい暮しを続けてゆくのです。大欲は無欲に似たりでせうか。

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入海を囲む岬と島島が一つより無き櫓の音を聞く
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 能登の和倉温泉での作。この歌の中には実際櫓の音がしてゐるやうだ。印
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