もなつたのだ、若い時があつたといふ証拠のやうなそれほどの事を今更誰が咎めませうといふ心であらうか。
[#ここから2字下げ]
先に恋ひ先に衰へ先に死ぬ女の道に違はじとする
[#ここで字下げ終わり]
女庭訓にあるやうな日本の婦道を歌つたものでも何でもない。私はかう思ふ。この頃しきりに髪が落ち目のふちに小皺が見え自分ながら急に衰へを感じ出したが、さてどうにもならないといふ時、自分に言つて聞かせる言ひ訳だらうと思ふがどうであらうか。
[#ここから2字下げ]
秋寒し旅の女は炉になづみ甲斐の渓にて水晶の痩せ
[#ここで字下げ終わり]
秋寒しは、文章なら水晶の痩せて秋寒しと最後に来る言葉である。これは昭和七年十月富士の精進湖畔の精進ホテルに山の秋を尋ねた時の作。富士山麓の十月は相当寒い。旅の女は炉辺が放れられない。しかし寒いのは旅の女許りではない、この甲州の寒さでは、水晶さへ鉱区の穴の中で痩せ細ることだらう。
[#ここから2字下げ]
一端の布に包むを覚えけり米《よね》と白菜《しらな》と乾鮭《からさけ》を我
[#ここで字下げ終わり]
世話女房になりきつた巾幗詩人の述懐であるが、流石に
前へ
次へ
全349ページ中176ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
平野 万里 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング