恋しき山の朝夕
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寛先生歿後書翰などの蒐集が行はれた。それを夫人は先に 亡き人の古き消息人見せぬ多少は恋に渡りたる文 と歌はれたが、それらを一括して箱根へ持つて行つて整理された。その中の一通にひどく昔を思ひ出させるものがあつたのであらう。
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河芒ここに寝ばやな秋の人水溢れてば君と取られん
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これも亦昔の秋の玉川の風景である。芒が暖かさうに秋の強い日射しを受けて真綿のやうに光つて居る。それを折敷いて寝たらさぞ気持がよからう。秋の水が溢れて来たらそのまま溺れてしまはう、君と一しよならかまはない。秋をテマにした軽快な情調である。
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茫々と吉田の大人《うし》に過去の見えそれよりも濃く我に現る
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寛先生歿後、先生と晩年十五年間親交を続けた説文学者吉田學軒氏は五七日に当つて夫人に一詩を呈した。曰く。楓樹蕭々杜宇天。不如帰去奈何伝。読経壇下千行涙。合掌龕前一縷香。志業未成真可恨。声名空在転堪憐。平生歓語幾囘首。旧夢茫々十四年。夫人は直ちにこの詩の五十六字を使つて五十六首
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