の霧の香に咽ぶ君あらぬ後杜鵑と我と
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五月の若葉時の足柄は好天必ずしも続かず雨や霧の日も多い。その霧の足柄山を包んだ日にその中でほととぎすがしきりに啼き出した。君と共に咽ぶ筈の山の霧であるが君なき後とて図らずも杜鵑と二人で咽んでゐる所ですとあの世の人へ報告する心持も持つてゐるやうな歌である。
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戸を繰れば厨の水に有明の薄月射しぬ山桜花
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昔はどこの家にも水甕といふものがあつて一杯水が張つてあつたものだ。朝起きた主婦が台所の戸を繰ると水甕の水から怪しい光が反射してゐる。それは有明の月の光のやうな明るさである。よく見ると外《そと》の山桜の花が映つてそれが光つてゐたのであつた。つまり春の朝の山桜の花の心が薄月の感じで表現されてゐるわけだ。
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ほととぎす山に単衣《ひとへ》を著れば啼く何を著たらば君の帰らん
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山の初夏も稍進んで袷を単衣に著替へたらその日からほととぎすが啼き出した。今度何に著替へたら君が帰つてくるのだらう。一々の景物が一々心を掻き乱す種となつた時期の
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