に托した歌で、さういふ場合の心細い感じが洵によくあらはれてゐる。しかしまた脱俗した趣きもあり健康時には反つて出来さうにもない歌である。同じ時の作に 色づきし万年草のひさがるゝ高野の秋も寒かりぬべし 桔梗など刈萱堂に供へつゝ高野の山を友の行くらん などがある。
[#ここから2字下げ]
つばくらの羽にしたたる春雨を受けて撫でんかわが朝寝髪
[#ここで字下げ終わり]
日本では女の髪を黒髪といつて女そのものと同じ値をつけてゐる。その大切な黒髪を少女心のこよなくいたはる心持を詠んだ歌であるが、情景相応した気持のよい出来栄えで乱れ髪の中では最も無難な歌の一つに数へられる。
[#ここから2字下げ]
刈萱は烏の末の子と云はん顔して著たるぶつさき羽織
[#ここで字下げ終わり]
昭和十五年の春夫人の仆れた脳溢血は可なり程度の強いもので一時は意識さへ朦朧となられたが次第に囘復し翌年の夏には起き上ることが出来、やがて上野原の依水荘へ出養生に行かれるまでになつた。精神力も著しく囘復し、半切なども書かれ、歌もここでは沢山よまれた。その帰途、小仏峠辺で車窓に映つた光景の一つがこれだと思はれる。ぶつさき羽
前へ
次へ
全349ページ中13ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
平野 万里 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング