ひすぐれて人を疎まんともとより人の云ひしならねど
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 私はこの「人」を他人の意として解釈する。恋をする位なら人にすぐれた恋をし、人を疎む場合には之も人にすぐれて疎まうと云つたのは、それは他人ではなくもとより私自身であつた。それなのに実際はどうか。私にはこんな意味に取れるが果して如何。他の解あらば教へを乞ひ度い。

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ことは皆病まざりし日に比べられ心の動く春の暮かな
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 十二年の春四月の末つ方大磯でかりそめの病に伏した時の作の一つ。病まぬ日は昔を偲ぶをこととしたが、今病んでは事毎にまだ痛まなかつた昨日の事が思はれて心が動揺する。ましてそれは心の動き易い行く春のこととてなほさらである。この時の歌はさすがに少し味が違つて心細さもにじんでゐるが同時に親しみ懐しみも常より多く感ぜられる。二三を拾ふと いづくへか帰る日近き心地してこの世のものの懐しき頃 大磯の高麗桜皆散りはてし四月の末に来て籠るかな 小ゆるぎの磯平らかに波白く広がるをなほ我生きて見る もろともに四日ほどありし我が友の帰る夕の水薬の味 等があげられる。

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われを見れば焔の少女君見れば君も火なりと涙ながしぬ
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 これは作者自身の場合を正抒し、それを涙流しぬで歌に仕上げたものであるが、これほどのものも当時作者の外誰にも出来なかつたことを私は思ひ出す。

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華やかに網代多賀をば行き通へ泣くとて雨よ時帰らんや
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 多賀の佐野屋で網代湾に降る早春の雨を見ながら雨に話しかける歌。雨よ降るなら華やかに降つて網代と多賀の海上を勢ひよく往復するがよい、めそめそ泣いて降つたとて過ぎ去つたよい日は決して帰つてこないのだからと雨にいふ様に自分にいつてきかせるのである。

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紫と黄色と白と土橋を胡蝶並びて渡りこしかな
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 たとへば日本舞踊で清姫のやうな美姫を三人並べて踊らせる舞台面があつたとする。それを蝶に象徴するとこの歌になる。象徴詩はもと実体がないのであるから、読む者が自由に好きなものを空想してはめこむが宜しい。

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瀬並浜宿の主人が率ゐつゝ至れる中にあらぬ君かな
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 汽
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