自覚した機会を美しく平叙するだけで少しも誇つてはゐない。
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夕焼の紅の雲限り無く乱るる中の美くしき月
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西妙高から初まつて東信越の山々に終る大きな夏の空には真赤な夕焼雲が絵具皿の絵具のやうに散らかつてゐる。その雲の間に白い夕月がちんと収つてゐる。山の様子が少しも示されてないので唯の天球の歌と見るより仕方がないが実はさういふ環境で作られたものである。
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長持の蓋の上にて物読めば倉の窗より秋風ぞ吹く
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堺の駿河屋の土蔵の中で更科日記か何か取り出して読んでゐる町娘の姿が浮んで来た。それは正しく自分である。倉の窓からは初秋風が涼しく吹き込んでゐた、丁度今日の様に。
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深山鳥|朝《あした》の虫の音《ね》にまじり鳴ける方より君帰りきぬ
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郭公がしきりに啼くのでどの辺だらうかとその方角を尋ねて居ると暁の露を踏んで早くから散歩に出た良人が、丁度その声のする方から帰つて来た。個中の消息誰か之を知らんといふ訳であらう。
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古里の蓬の香など匂ひ来よ松立つ街の青き夕ぐれ
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正月の街は松が立つてゐて外に色がない為何となく青味が勝つて見える。そこに若草の萠え出る早春の感じが出て来る。さうして故郷の和泉平野の蓬の匂ひが今にもしさうに思へる。そんなことを思ひながら暮れてゆく正月の街を見てゐた作者であつた。さうしてさういふ正月の街も嘗てはこの東京にもあつたのである。
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昔より恋にたとへし虹なれど消ゆることいと遅き山かな
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夏の朝の山上の虹のいつまでも消えない消息を逆に喩への方から引出さうとするので、少し変だが有効な手段でもあるやうだ。
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春立ちぬ人と為したる約束を皆忘れ得ば嬉しからまし
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大晦日から元旦にうつる気分は色々表現され得るであらうが、これなどはその最も適切なものの一つであらう。元来時に大晦日も元旦もあつたものではない。それすら人の約束である。一切の約束を忘れてしまへば空気が残るだけで、それがきれいさつぱり洗はれた立春の本来の姿でもある。
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雲深き越の国なる関の
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