の飾らぬ衷情で、或一時期には悲壮な覚悟をさへしたことのある事実を寛先生の口から私は聴いてゐる。
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風立てば錦の如し収まれば螺鈿の如し一本桜
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桜を歌つた歌はこの作者には特に多い。荻窪の御宅には弟子達の贈つた数本の大木の染井吉野もあつて、春ともなれば朝夕仔細に観察する機会が与へられた。この歌の如きもその結果の一つであらう。動静二相を物の形態を借りて表現せんとしたものであるが、螺鈿の静相はよく分る、静かなる螺鈿の如しと云つてもをかしくない。錦の動相は如何か。昔から紅葉を錦に譬へるが川を流れる紅葉の場合などは正に動相である。しかしこの場合の動相はそんなことではない。錦のきらきらする心、それが風にもまれる桜の心なのであらう。
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神ありて結ぶといふは二人居て心の通ふことをいふらん
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一寸無味乾燥な aphorism のやうにも聞こえるが、二人居て心の通ふといふ処を重く見て、二人が同じ席に居て無言の儘心を通はしてゐる状態を思ひ浮べ、神ありて結ぶを御添へ物の様に軽く扱へば歌らしく響いて来てやはり面白いのである。
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春寒し未だ南の港にて復活祭を燕待つらん
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斯ういふ歌の作者こそ、読者から厚い感謝を捧げらるべきであらうと私は思ふ。なぜなら春が寒いといふ事象の外この場合何もないので本来なら歌は成立しない筈である。然るにその無の中へ詩人の空想が躍り出し形を造り出し生命を与へ、それによつて初めて春寒の感じが具象化され、読者の心の糧となるのである。仍てその功は徹頭徹尾詩人の空想が負ふべきである。
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言葉もて謗りありきぬ反《そむ》くとは少し激しく思ふことかな
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言葉に出た所では批謗としか思はれぬ様な事をしやべり歩く私である、人が聞いたら恋の反逆者のやうに思ふかも知れない、併しそれは言葉の上だけのことである。反逆と見えるのは実は前より少し許り激しく思ふことで、逆どころか順に進んで居たのである。日本の女性にも数個の好抒情詩を残した人が少しはある。額田女王、狹野茅上娘子、小町、和泉式部の様な人々である。しかしその内容は何れも大らかなのびのびした強烈ではあつても単純な古代人の情操を出るものはなく、
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