さうに煙草を吸ふ神経質の男は、この男は両方へ味方しながら両方へ反対する、つまりソフィストであった。
今日も些細なことを発端として、小さな眼をした男と大きな鼻をした男との意見は結局一致しなかったが、そのため大きな鼻の男の方がより不機嫌な顔をした。すると小さな眼をした男は議論をこの辺で打切る積りで、詠嘆的な調子で、
「しかし、僕はこの二三日フロイドのトーテムとタブウを読んでるが、フロイドはいいね。一つ一つ胸に思ひあたることだらけだよ。」と云った。すると大きな鼻をした男は如何にも我が意を得たやうな顔で、
「君もさう思ふのかい。」と云って、今度は頻りにフロイドの話であった。
そのうちに精神分析の話がだらけて、ほんとの冗談になって来ると一番にソフィストが口をきいた。
「君達だって今にのうのうと女房持って収まるとよ、オイ、葱を買って来給へよ、なんて云ふのだらうね。」
すると眼の小さな男は鼻の大きな男の口真似をしながら、
「オイ、竹田さんがおいでになったから、牛肉と葱買って来いよ。オイ、オイ、それから焼豆腐も忘れるなよ。コラ、コラ、何故返事しないのだ。ハハハ、君が一番に女房もって子供生むにちが
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