ての理解も可能であらう。だが、もしも原子力兵器が今後地球で使用されるとするならば、恐らく人類は完全に絶滅し、陰々として草木が密生する地上を爬虫類のみが徒らに跳梁する光景が残されるばかりではあるまいか。
一人の人間が戦争を欲したり肯定する心の根底には、他の百万人が惨死しても己れの生命だけは助かるといふ漠たる気分が支配してゐるのだらう。無論、過去の戦争においては、さうした事もあり得た。だが、戦争は今後、あらゆる国家あらゆる人間の一人一人を平等に死滅に導くといふことを特に銘記すべきだ。
「人々の心の中でのみ戦争は防止できぬが、人々の心の中で戦争を承認するときは、遂に人類は自滅せざるをえない段階に立ちいたることを、われわれは心に焼きつけようではないか!」(平田次三郎)結局「戦争を防ぐのは我々であり、我々の一人一人である。」(杉捷夫)
平和の擁護、平和への協力は、絶えざる忍耐と緊張を一人一人に要請するであらう。今日己れと己れの周囲を少し静かに顧みれば、戦争のために存在した嘗ての環境が、いかに人間全体の心理を病的に歪曲したか、現に今も傷害してゐるかは、あまりにも明かなことがらである。この地獄と
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