した。私も体を調べてみると、極く僅《わず》かだが、斑点があった。念のため、とにかく一度|診《み》て貰うため病院を訪れると、庭さきまで患者が溢《あふ》れていた。尾道《おのみち》から広島へ引上げ、大手町で遭難したという婦人がいた。髪の毛は抜けていなかったが、今朝から血の塊《かたまり》が出るという。妊《みごも》っているらしく、懶《だる》そうな顔に、底知れぬ不安と、死の近づいている兆《きざし》を湛《たた》えているのであった。
舟入川口町にある姉の一家は助かっているという報《しら》せが、廿日市の兄から伝わっていた。義兄はこの春から病臥中《びょうがちゅう》だし、とても救われまいと皆想像していたのだが、家は崩れてもそこは火災を免れたのだそうだ。息子が赤痢でとても今苦しんでいるから、と妹に応援を求めて来た。妹もあまり元気ではなかったが、とにかく見舞に行くことにして出掛けた。そして、翌日広島から帰って来た妹は、電車の中で意外にも西田と出逢《であ》った経緯《いきさつ》を私に語った。
西田は二十年来、店に雇われている男だが、あの朝はまだ出勤していなかったので、途中で光線にやられたとすれば、とても駄目だ
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