冬日記
原民喜
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)西洋紙を展《ひろ》げて、
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)それは毎日|殆《ほとん》ど
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「赤+暇のつくり」、43−15]
−−
真白い西洋紙を展《ひろ》げて、その上に落ちてくる午後の光線をぼんやり眺《なが》めていると、眼はその紙のなかに吸込まれて行くようで、心はかすかな光線のうつろいに悶《もだ》えているのであった。紙を展《の》べた机は塵《ちり》一つない、清らかな、冷たい触感を湛《たた》えた儘《まま》、彼の前にあった。障子の硝子越《ガラスご》しに、黐《もち》の樹が見え、その樹の上の空に青白い雲がただよっているらしいことが光線の具合で感じられる。冷え冷えとして、今にも時雨《しぐれ》が降りだしそうな時刻であった。廊下を隔てた隣室の方では、さきほどまで妻と女中の話声がしていたが、今はひっそりとしている。端近い近壁の家々も不思議に静かである。何か書きは
次へ
全22ページ中1ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
原 民喜 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング