の並んだ狭いアスファルトの街に人が一杯で、ふと店さきのショー・ウインドーを見ると、独逸製のカットグラスが透明になって消えた。
(彼は誰かの泣声を聞いた。女の声らしかった。)
何故泣くのかと訝《いぶか》りながら、濃い藍色の闇を潜って行くと、生駒山のトンネルを潜ってゐるらしかった。向ふにステンド・グラスのやうな空間が懐しく見える。明るい昼がひかへてゐるらしい。しかしトンネルを出たやうな気がした時、そこは矢張り彼の生れた街の一角だった。橋のたもとへ出てゐて、それも夜であった。妖婦的な女が笑った。その金歯がはっきりと彼の目に映る。早くそれも透明な輪になれ、と彼はぢっと待った。
底本:「普及版 原民喜全集第一巻」芳賀書店
1966(昭和41)年2月15日
入力:蒋龍
校正:小林繁雄
2009年6月18日作成
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