ところまで、最も切なる祈りのやうに。
 死者よ、死者よ、僕を生の深みに沈めてくれるのは……ああ、この生の深みより仰ぎ見るおんみたちの静けさ。
 僕は堪へよ、静けさに堪へよ。幻に堪へよ。生の深みに堪えよ。堪へて堪へて堪へてゆくことに堪へよ。一つの嘆きに堪へよ。無数の嘆きに堪へよ。嘆きよ、嘆きよ、僕をつらぬけ。還るところを失つた僕をつらぬけ。突き離された世界の僕をつらぬけ。
 明日、太陽は再びのぼり花々は地に咲きあふれ、明日、小鳥たちは晴れやかに囀るだらう。地よ、地よ、つねに美しく感動に満ちあふれよ。明日、僕は感動をもつてそこを通りすぎるだらう。



底本:「日本の原爆文学1」ほるぷ出版
   1983(昭和58)年8月1日初版第一刷発行
初出:「群像」
   1949(昭和24)年8月号
※連作「原爆以後」の7作目。
※文中、〈〉で囲まれた語句は、見出しとして扱われているものは2字下げとし、その他のものは行頭の括弧の扱いに従って字下げなしとしました。
※文中〈ソフアの上での思考と回想〉の部分は、「夏の花・心願の国」新潮文庫、新潮社 1973(昭和48)年7月30日発行、「夏の花・鎮魂歌」講談社文庫、講談社 1973(昭和48)年5月15日第1刷発行では、2字下げ、前後1行あき扱いになっていますが、本ファイルでは底本通り字下げ処理はしませんでした。
入力:ジェラスガイ
校正:大野晋
2002年9月20日作成
2003年5月21日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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