めらいがちに進んでゆく。突然、光はさッと地上に飛びつく。地上の一切がさッと変形される。街は変形された。が、今、家屋の倒壊がゆるゆると再びある夢のような速度で進行を繰返している。僕は僕を探す。僕はいた。あそこに……。僕は僕に動顛《どうてん》する。僕は僕に叫ぶ。(虚妄《きょもう》だ。妄想だ。僕はここにいる。僕はあちら側にいない。僕はここにいる。僕はあちら側にはいない)僕は苦しさにバタバタし、顔のマスクを捩《も》ぎとろうとする。
と、あのとき僕の頭上に墜ちて来た真暗な塊《かたま》りのなかの藻掻《もが》きが僕の捩ぎとろうとするマスクと同じだ。僕はうめく。僕はよろよろと倒れそうになる。倒れまいとする。と、真暗な塊りのなかで、うめく僕と倒れまいとする僕と……。僕はマスクを捩ぎとろうとする。バタバタとあばれまわる。……スイッチはとめられた。やがて案内人は僕の顔からマスクをはずしてくれる。僕は打ちのめされたようにぐったりしている。案内人は僕をソファのところへ連れて行ってくれる。僕はソファの上にぐったり横《よこた》わる。
〈ソファの上での思考と回想〉
僕はここにいる。僕はあちら側にはいない。
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