ああ、生命《いのち》……生命……これが生命あるものの最後の足掻《あがき》なのだろうか。ああ、生命、生命、……人類の最後の一人が息をひきとるときがこんなに速くこんなに速くもやってきたのかとおもうと、わたしのなかにすべての悔恨がふきあがってくる。なぜに人間は……なぜに人間は……なぜ人間は……ああ、しかし、もうなにもかもとりかえしのつかなくなってしまったことなのだ。わたしひとりではもはやどうにもならない。わたしひとりではもはやどうしようもない。わたしはわたしの吐く息の一つ一つにはっきりとわたしを刻みつけ、まだわたしの生きていることをたしかめているのだろうか。わたしはわたしの吐く息の一つ一つに吸い込まれ、わたしの無くなってゆくことをはっきりとあきらめているのだろうか。ああ、しかし、もうどちらにしても同じことのようだ。
〈更にもう一つの声が〉
……わたしはあのとき殺されかかったのだが、ふと奇蹟《きせき》的に助かって、ふとリズムを発見したような気がした。リズムはわたしのなかから湧《わ》きだすと、わたしの外にあるものがすべてリズムに化してゆくので、わたしは一秒ごとに熱狂しながら、一秒ごとに
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